オルミエント ® (バリシチニブ)
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<COVID-19>SARS-CoV-2による感染症に対するオルミエント(バリシチニブ)の作用機序は?
バリシチニブはJAK-STATサイトカインシグナル伝達を阻害することによって増加したサイトカイン濃度を低下させ、抗炎症作用を示します。
解説
<新型コロナウイルス感染症:COVID-19>
バリシチニブは、タンパク質チロシンキナーゼであるJAK(ヤヌスキナーゼ)ファミリー、特にJAK1及びJAK2の選択的可逆的阻害剤であり、TYK2及びJAK3に対する選択性は高くありません1,2。
バリシチニブは、JAKのATP結合部位を一時的に占有することにより、JAK-STAT経路を調節し、その結果、サイトカインによるシグナル伝達を調節します。この結果、JAKのリン酸化とそれに続くSTATのリン酸化と活性化を阻害します3 。
バリシチニブによるJAK阻害は一過性で可逆的です。1バリシチニブは、JAK-STAT経路を介するシグナル伝達を1日数時間阻害します。阻害効果は投与後1~2時間が最大で、投与後16~24時間までにはベースライン値に戻ります2 。
各酵素アッセイにおいて、バリシチニブは、
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JAK1及びJAK2に対して選択性を示し、JAK1 に対するIC50は5.9 nM、JAK2 に対するIC50は5.7 nMでした。
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JAK3に対するIC50は560 nMでした。
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TYK2に対するIC50は53 nMでした1。
IL-2、IL-6、IL-12、IFN-α、IFN-β、IFN-γ、GM-CSF等、多数の炎症性サイトカインは、細胞膜を越えてシグナルを伝達するために、タンパク質チロシンキナーゼのJAKファミリー(JAK1、JAK2、JAK3、TYK2)が必要です1-4。
細胞内では、JAKが自己リン酸化とリン酸転移によってリン酸基をATPからSTATに転移させます3。この可逆的なリン酸化によってSTATは活性化され、細胞の核内に移行して、DNA上の遺伝子調整タンパクに結合し、炎症に関与する遺伝子の転写を亢進させます3-6。
1種類以上のJAKを阻害すると、当該JAKに依存するサイトカインの活性が調節されます1,2。
COVID-19に対するバリシチニブの潜在的な作用機序
人工知能プラットフォームの結果に基づき、バリシチニブはCOVID-19による急性呼吸疾患の治療薬になる可能性があることが確認されました7。
バリシチニブは、COVID-19呼吸器疾患の治療機序として、JAK/STATサイトカインシグナル伝達を阻害することによって、増加したサイトカイン濃度を低下させます7,8。
各サイトカイン経路に対するバリシチニブの作用を明らかにするために、in vitroでの関連白血球亜集団に対する薬理作用にin vivoでの薬物動態を加味してバリシチニブの抗サイトカイン活性を検討しました。その結果、バリシチニブは、COVID-19に関与するIL-2、IL-6、IL-10、IFN-γ、G-CSF等のサイトカインのシグナル伝達を阻害することが判明しました。IC50値が低いほど、各投与間のサイトカイン誘発性JAK/STATシグナル伝達の全体的な阻害効果が高い事を示しています(図1参照)。9
図1 In Vitro試験におけるバリシチニブのサイトカイン阻害作用9
略語:CD4=cluster of differentiation 4、CD8=cluster of differentiation 8、G-CSF=顆粒球コロニー刺激因子、GM-CSF=顆粒球単球コロニー刺激因子、IC50=50%阻害濃度、IFN=インターフェロン、IL=インターロイキン、NK cell=ナチュラルキラー細胞、NS=刺激なし、STAT=シグナル伝達兼転写活性化因子、T cell=胸腺細胞
サイトカイン/pSTATの組み合わせ=IL-2/pSTAT5、IL-4/pSTAT6、IL-3/pSTAT5、IL-6/pSTAT3、IL-10/pSTAT3、IL-15/pSTAT5、IL-21/pSTAT3、GM-CSF/pSTAT5、IFNγ/pSTAT1
注:In vitro濃度反応曲線と公表されているヒト曝露量データを用いて、1日あたりの平均STAT阻害率を算出
さらに、関節リウマチ患者を対象とする第Ⅱ相試験で、バリシチニブの投与により、12週目の血漿中IL-6がベースラインに比べ有意に減少しました(図2参照)9,10。
図2 関節リウマチを対象とする第Ⅱ相試験における血漿中IL-6濃度の変化量9
略語:IL-6=インターロイキン6、RA=関節リウマチ
また、バリシチニブはNAKファミリー(AAK1、BIKE、及びGAK)を介したSARS-CoV-2の受容体介在性エンドサイトーシスを阻害する可能性が示唆されています9。
1. Fridman JS, Scherle PA, Collins R, et al. Selective inhibition of JAK1 and JAK2 is efficacious in rodent models of arthritis: preclinical characterization of INCB028050. J Immunol. 2010;184(9):5298-5307.
2. Shi JG, Chen X, Lee F, et al. The pharmacokinetics, pharmacodynamics, and safety of baricitinib, an oral JAK 1/2 inhibitor, in healthy volunteers. J Clin Pharm. 2014;54(12):1354-1361.
3. Schwartz DM, Bonelli M, Gadina M, O’Shea JJ. Type I/II cytokines, JAKs, and new strategies for treating autoimmune diseases. Nat Rev Rheumatol. 2016;12(1):25-36.
4. Pesu M, Laurence A, Kishore N, et al. Therapeutic targeting of Janus kinases. Immunol Rev. 2008;223(1):132-142.
5. Villarino AV, Kanno Y, Ferdinand JR, O’Shea JJ. Mechanisms of Jak/STAT signaling in immunity and disease. J Immunol. 2015;194(1):21-27.
6. O'Shea JJ, Holland SM, Staudt LM. JAKs and STATs in immunity, immunodeficiency, and cancer. N Engl J Med. 2013;368(2):161-170.
7. Richardson P, Griffin I, Tucker C, et al. Baricitinib as potential treatment for 2019-nCoV acute respiratory disease. The Lancet. 2020;365(10223):e30-e31.
8. Stebbing J, Phelan A, Griffin I, et al. Covid-19: Combining antiviral and anti-inflammatory treatments. Lancet Infect Dis. 2020;20(4):400-402.
9. Stebbing J, Krishnan V, de Bono S, et al. Mechanism of baricitinib supports artificial intelligence-predicted testing in COVID-19 patients. EMBO Mol Med. 2020; 12(8): e12697 Published online May 30, 2020. [利益相反:本試験はイーライリリー社の支援により行われました。]
10. Tanaka Y, Emoto K, Cai Z, et al. Efficacy and safety of baricitinib in Japanese patients with active rheumatoid arthritis receiving background methotrexate therapy: a 12-week, double-blind, randomized placebo-controlled study. J Rheumatol. 2016;43(3):504-511. [利益相反:本試験はイーライリリー社の支援により行われました。)
[略語]
CD4 = cluster of differentiation 4
CD8 = cluster of differentiation 8
COVID-19 = SARS-CoV-2による感染症
G-CSF = 顆粒球コロニー刺激因子
GM-CSF = 顆粒球単球コロニー刺激因子
IC50 = 50%阻害濃度
IFN = インターフェロン
IL = インターロイキン
JAK = ヤヌスキナーゼ
NK cell = ナチュラルキラー細胞
SARS-CoV-2 = 重症急性呼吸器症候群コロナウイルス-2
STAT = シグナル伝達兼転写活性化因子
TYK = チロシンキナーゼ
◆Lillymedical.jp◆
最終更新日: 2021年4月
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